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中学2年生の時に初めて一人で観に行った映画がこれです。ドラマ系の洋画もこの時が初体験でした。たぶんドラゴン映画かパニック映画を友達と観に行ってその時に宣伝をみて行きたくなったのですが、暗そうな映画だったので何となく友達を誘わずこっそり一人で行きました。案の定暗い映画でしたが、すごく面白かったし、デ・ニーロがとんでもなくカッコ良かった。それに一人でじっくりと映画を観ることがこんなに充実することなのかと、そのこと自体に目からウロコでした。そしてこの時から僕の映画人生がスタートしたのです。こずかいの少ない子供を毎週毎週名画座めぐりをするように仕向けたこの映画、ロバート・デ・ニーロとマーチン・スコーセッシのコンビの2作目です。この名コンビのベスト・ワークはやはり「レイジング・ブル」と言うことになりますが、僕はそんな経緯もあってこの作品を彼らのNo.1に上げます。 公開当時から今現在まで劇場、ビデオ、テレビと何度となく観ていますが全く古びた感触はなく、と言うよりも最初から新しさも無かったような気がします。新しくも古くもない、元々そこにあったという感じです。この感覚はこの作品の舞台となっているニューヨークという街が持っている独特の匂いに良く似ています。行ったことのある人は判ると思いますがニューヨークは最先端の街というよりも人間が作ってしまった究極の街で、古いもの、新しいもの、良いもの、悪いもの、肯定も否定も受け入れ、そして拒絶する独特の街です。「タクシー・ドライバー」はこの街の描写が非常に優れていて、僕が初めてニューヨークに行ったときにまず思ったのがこの映画がいかにリアルにこの街を描いていたかという事でした。 街並みや色、ちょっとした店の雰囲気までも映画で見た通りでした。ノイローゼのベトナム帰還兵が大統領候補暗殺に失敗したものの、少女娼婦を無理やりヒモの手から救い出し、はからずもヒーローに成ってしまうというストーリーも善と悪の区別が曖昧でとてもニューヨーク的です。だいたい主人公トラヴィスをはじめ登場人物のほとんどが心の病を患っていて、イカれています。どんな風に人々がおかしくなっていくのか、どんな病み方をするのか、スコーセッシは丁寧に描いています。克明な人物描写を全編にちりばめる事によってニューヨークという街を表情豊かに描き切る逆転の法則がこの映画の存在自体をまるでニューヨークそのものに仕上げています。この街が好きな人は絶対にこの映画も好きなはずです。この「街」を描く事で人間社会の有様を浮き彫りにしたスコーセッシのセンスには正しく脱帽です。 キャストは20世紀最高の役者バカ、ロバート・デ・ニーロを筆頭にハーベイ・カイテル、ジョディ・フォスター、シビル・シェパード、ピーター・ボイルと今さらながらかなり濃いです。特にハーベイ・カイテルはやっと「レザボア・ドッグス」あたりからブレイクしましたが、それまで何をしてたんだというくらいテンションの高い怪演を魅せてくれます。しかし最大の見せ場は何と言ってもトラヴィスの武装シーンでしょう。袖口からワルサーPPKが飛び出る仕掛けに男子はみんなシビレたはずです。当然のカンヌ映画祭グランプリです。(1999.9.9改訂)
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