"ヤクザ、わが兄弟"
2008.6.6 ヤコブ・ラズ著。作品社。知っているようで実際には謎の多いヤクザ社会の実態を内側から5年間にわたり観察した名著。イスラエル人であり、東京外語大の教授でもあるラズ氏は、マフィアやコサ・ノストラ、コモラとは全く違う、日本の裏社会を仕切る男達「ヤクザ」をとんでもないリアリティで描いている。以前に読売新聞の書評で見たときから気になっていたが、たまたま図書館で発見したので何気なく手に取り、パラパラと読み始めたら止まらなくなって一気に読んでしまった。丁度此処のところ昭和の日本映画にハマっていて、そうするとどうしてもヤクザ映画は欠かせない存在であり、なので「人生劇場」や「昭和残侠伝」等の「犯罪と悪とはイコールにあらず」的な任侠映画の影響もあったかとも思われるが、とにかくえらい感動しました。翻訳の母袋夏生氏の翻訳力が素晴らしいのでしょうが、次々に剥き出されるストーリーの迫力とそれら全体が一つの悲しい詩のような作りに成っているので、好きな部分を何度も何度も読み返しました。ヤクザという生き方が良いとは言わないけれど、この本に登場するバブル崩壊前の古いタイプのヤクザである組長や若頭は間違いなく魅力的で筋の通った愛すべき人間であり、自分たちが存在する事によって日本はある意味守られていると自負する彼らの言葉は、今のあらゆるモノが崩壊してしまっている現代社会を予言しているかの様です。おっと、危ない危ない。本は読んでものまれるなってどこかの偉い先生が行ってたっけ。しかしこの生なましさはどうにもこうにも面白すぎます。日本人、韓国人、テキヤ、差別、右翼、恐喝、仁義・・・ヤクザには悲しみと寂しさが付きまとうけれど、同時に今の一般人が忘れ去った誇りも持ち合わせていました。この本は従来のヤクザ小説や実録モノとは全く違う、唯一無二の真ヤクザ本であります。ラズ氏には愛があり、根性がある。彼が出会ったヤクザたちと同じ様に、彼も腹が座った男だからヤクザたちも徐々に心を開いてゆく。ラズ氏は1996年にも「ヤクザの文化人類学」という研究書を岩波書店から出しているので、本作を読んだ後でそちらを読むと更に興味深いです。そしてこの本は絶対に映画に成るし、是非して欲しい。主演はもちろん渡哲也で、主題歌はジェームス藤木が熱唱するクールスRCの「テル・ミー・ホワイ」で決まり。これがバッチリ合うからね。大ヒット間違いなし。
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