"PULP FICTION "1994

Directed by: Quentin Tarantino / Written by: Quentin Tarantino & Roger Avary / Director of Photography: Andrzej Sekula / Cast: John Travolta, Samuel L. Jackson, Uma Thurman, Harvey Keitel, Tim Roth, Rosanna Arquette, Amanda Plummer, Maria de Medeiros, Ving Rhames, Eric Stoltz, Christopher Walken, Bruce Willis


 冒頭のファミレス・ジャックの場面からタイトル・ロールが流れるまでの数分でもうすでに「やられた!」って感じの映画である。ディック・デイルのトレモロ・ギターと共についに自分たちの時代がやって来たのかと鳥肌が立った。そう、監督のクエンティン・タランティーノは僕と同じ歳である。余談だがマイケル・ジョーダンも同じ歳だ。サンズのチャールズ・バークレーしかり。違う国で育ったとは言え、似たような流行や価値観を経験しているためか、タランティーノが描こうとするカッコ良さや面白味には非常に共感を覚える。急激に売れっ子に成ってしまったために色々とヤッカミ半分に非難されることも在る男だが僕は彼を支持する。なぜなら彼が絡んだ映画の全てが僕の観たい「暴力とユーモア」に溢れたファンタジーだからだ。西海岸製の映画はこうでなくては。この作品はその代表作と言えるだろう。

 オランダ帰りのギャング、ビンセントとその相棒ジュールスの近辺で起こる幾つかのエピソードを、時系列を無視した軽いカット・アップ法によって再構築されたストーリーはとても巧みで楽しめる造りになっている。この映画を観終わった時に僕の頭に浮かんだのは、ストレンジャー・ザン・パラダイスを製作中のジャームッシュにロバート・フランクが言った「初めのアイデアに縛られてはいけない。終わりが始まりになったっていいんだ。」というアドバイスだった。それぞれのエピソードを自由にしてやる事で全体のストーリーが活き活きとしてくる。そのよい見本だろう。このやり方は脚本をまるで一遍の詩の様に際立たせている。主人公が殺されてしまうショッキングなシーンさえ、この物語全体の中では乾いたユーモアさえ漂っている。これ以上混ぜっ返すと難解になってしまうが、それが程よい塩梅なのも市民的で良い。以後この形式はタランティーノ・スタイルと呼ばれ、ハリウッドで定着していく。しかし凡才がカタチだけをまねしても駄目だ。それをするにはそれなりの理由と裏付けが必要なのである。

 タランティーノは徹底的に拘る。音楽やキャスティングは勿論、細かい状況設定も実体験に基づいたリアリティーを大切にする。映画の中で交わされる台詞は彼の生活の中から生まれて来た生の声だ。馬鹿げたファンタジーだからこそ画面の中の現実臭さが重要なのだ。彼の作品のほとんどがロサンゼルスを舞台にしているのもその為である。そこで生きている人間だけが表現出来る立ち振る舞いが、それを知らない僕たちに底知れぬ凄みとリアリティーを感じさせてくれる。そして選曲の良さ。同年代だから趣味が合うのかもしれないが、サントラの半分は知らない曲だったにも関わらずカッコいいと感じるし、リアリティーを表現するのに一役も二役もかっている。その辺のセンスの良さもデヴィッド・リンチと良い勝負だろう。さらにこのキャスティングを改めて見て欲しい。今や主役級の俳優がずらり。まあクリストファー・ウォーケンは別として、この映画以前には大スターとは言えなかった人達ばかりだ。皆、タランティーノの御陰で見直された、掘り返されたと言っていいだろう。特にジョン・トラボルタの復活は本当にデカイ。タランティーノには役者を見る目がある。日本におけるビートたけしに匹敵する選択力だと思う。それだけでなく、名前を見ただけでその映画を観たくなくなるブルース・ウィルスでさえ、この映画ではあの役は彼以外考えられないほど光っているのも監督の力量を示している。

 イカしたレディーが尻を振り、ヤクザが打ち合う、車が暴走する、血が飛び散る、そしてズッコケる。それを観て観客は拳を握りしめてハラハラし、笑う。映画って本当にいいもんですねぇ、の一本。間違いなく90年代を代表する作品でしょう。


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