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映像作家と言う言葉が最も似合う男、それがジョン・カサヴェテスです。ブームはある日突然やってきました。彼が死んだ翌年、本屋で何気なく手に取った雑誌SWITCHのカサヴェテス特集号、これが彼との出会いでした。役者としての彼の事は「ローズマリーの赤ちゃん」や「パニック・イン・スタジアム」を観て知っていましたが、監督もやっていたとはこの本を読むまで知りませんでした。この本がとても良く出来た本で、カサヴェテスの友人達のインタビューを中心に構成されていて、それぞれが彼とのエピソードや想い出などを語り、人間カサヴェテスを浮き彫りにしていくというものでした。彼は生前よっぽど素晴しい人だったようで誰もが熱い口調で彼を語り、それを読んでいるうちに僕もカサヴェテス・ワールドにぐいぐいと引き込まれて、何度も何度も読み返したものです。感動のあまり友達にも勧めまくりました。案の定みんなこの本の虜となり、しまいにはキャンプにまで持っていって回し読みしました。「アウトドアで読むカサヴェテスもまたいいぞ」などとまるでこの本にヒーリング効果があるかのようでした。変な話ですがまだ彼の作品を観ていないのにすでにみんな熱狂的なカサヴェテス・ファンで、勢い余ってカサヴェテスに捧げるグループ展を企画したほどでした(実際に94年に"Set
One Free"と題してやりました)。 そんなある日、六本木の映画館で週変りでカサヴェテス作品を上映するというフェスティバルが催され、僕達は毎週金曜の夜にそれこそむさぼる様に彼の作品を観て、その素晴らしさを確認し、噛みしめ、酔いしれました。この時僕達と同じような人がたくさん居たようで、この劇場にしては珍しくいつもほとんど満杯でした。完全入れ換え制の為最終の回には座れない人が最前列の前に座布団をひいて観るという状況でなにやらアットホームな盛り上がりをみせていました。 カサヴェテス作品の魅力はまず第一に彼の作品すべてに貫かれている「人生はドラマチックである」と言うテーマ。人間はどんな環境に生きていてもそこには日常がありドラマがある、そんなあくまでもありきたりで魅力のある「人生」というものを描くことに集中した彼の作品づくりに対する姿勢。そしてそれを際立たせているのはまるで彼の魂の鼓動を直に伝えるかの様なテンポの良いカット割り、斬新なカメラ・アングルといった技術、あるいは感性と言ったほうがいいかもしれません。さらに僕が最も好きなのは役者の演技をしっかりとフィルムに収める芝居の撮り方です。「フェイシズ」でのシーモア・カッセル、「こわれゆく女」のジーナ・ローランズ、そして「チャイニーズ・ブッキーを殺した男」のベン・ギャザラ。皆映画史に残る名演技です。もちろん彼らは役者として優秀な人達ですがその持ち味を十二分に発揮しているのはやはりカサヴェテス作品においてでしょう。 しかもこれらはインディペンデントの映画なのです。俳優業や雇われ監督で稼いだお金をつぎこんで自分達の作りたい映画を作り、自分達で興業をうち、少しでも収益があればスタッフ全員に分配する... 今現在も世界のどこかの映画館で彼の映画を観ている人がいるはずですが、その料金は分配されスタッフの銀行口座に振り込まれるのです。理想と言う言葉でかたずけるには申し訳ないくらいの何という心意気でしょうか。ここまでやるには他人の理解が及ばないほど大変な事もあったと思いますが、きっと彼はただ映画が大好きだったに違いありません。当たり前のことですが彼の映画からはそれが人一倍プンプンと匂ってくるのです。彼は自分の作品をつくりたかった、そして映画を選んだ、そしてこういう方法をとり、これほどのものをつくったのです。本当にグッド・チョイスだったと思います。彼の作品と生き方に触れた時、僕はそれまで知らなかった新鮮な文化の香りを嗅いだのです。彼の新作がもう観れないのは本当に残念ですが、ものをつくる人、どんなジャンルであれ作家を目指す人には絶対に彼の残した作品を観て欲しいです。きっとカサヴェテスが勇気と力を与えてくれるはずです。 |
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