STONES: LIVE

"STEEL WHEELS TOUR"


 そのスケールと完成度の高さで、現在彼等に比較できるライヴパフォーマーは皆無だ。僕は今までに3度の来日公演で合計8回彼等のライヴを体験したが、いずれも極上のステージだった。なかでも印象深いのはやっぱり初来日のステージだろう。1990年2月、スティール・ホイールズのツアーで遂に彼らは日本にやって来た。最初に見たのは3階スタンドのB席、肉眼では5mmくらいの大きさのストーンズだったが舞台装置の素晴らしさも手伝って、彼らの作り出すグルーヴは確実に僕らに届いた。チケット・ぴあに徹夜で並んで手に入れた最低の席だったが最高にノレた。何よりもローリング・ストーンズのライヴを観たという現実に感動していた。

 次に2階スタンドの3塁側ベンチの上のS席。金網ごしに見たメンバーの体の細さに改めて驚き、視界いっぱいに広がる何やら儀式めいたステージに至福の時を感じながらビールの紙コップが2つ、3つと空いていった。ストーンズのライヴを体感するにはこのくらいの距離が一番適当かもしれない。想像以上の演奏力とバンドとしてのまとまりもリアルに感じる事が出来た。やっぱりドームで3階スタンドでは音が悪すぎる。そして問題の3日目、なんと僕はプラチナ・チケットを手に入れたのだ。当時ドームの関係者と交友があった友人がアリーナのチケットを手に入れて1枚余ってるから行かないかと誘ってくれたのだ。

 「23ゲート A10列 54番」、かなりいい席であることは数字を見ても察しがついたが実際に席についてマジで驚いた。ステージど真ん中の前から10番目だったのだ。この時客席を振り返って初めて東京ドームの大きさを実感した。凄い数の観客だった。ここで観れるのかと思ったら何だか緊張してしまい、とりあえず隠し持っていた酒の栓を抜いた。会場の音楽が止み、ライトが消えて、コンチネンタル・ドリフトが鳴りだすと会場がゴーっと地鳴りの様な歓声でいっぱいになった。暗闇のステージにバラバラと人が動いているのが見えると突然バーンと火薬がたかれて一瞬の静寂、その次の瞬間にキースのギターでスタート・ミー・アップが始まった。ステージの前方にパっとスポット・ライトが当たるとそこにはミックが立っていた。始めはまるで蝋人形の様に見えたが、本当に本物のミック・ジャガーが手を伸ばせば届きそうなところで歌っていた。

 確かにキース・リチャーズもシャイでカッコ良かったしロン・ウッドもここでは若造って感じで良かった。しかし間近に見るミックの存在感は想像以上だった。怒ったように天井を指さし、内股でクネクネと腰を振る彼はビデオや映画で見た時の何十倍もの光線を放っていた。ステージに上がったローリング・ストーンズのミック・ジャガーこそ本当のロックのカリスマだろう。僕の視線は右に左に、唯々彼に釘付けだった。途中ふと気がつくとチャーリー・ワッツの顔だけがギリギリ見えていた。彼は目を瞑って左右に顔を振っていた。舞台が高いのでここより近いとチャーリーは見えない。最高の場所で観ている事を再確認しつつグイグイと酒を飲み、歌い、踊った。帰るときになって初めて気づいたのだが僕はこの時かなり酔っていて、途中ブラウン・シュガーあたりで感極まって椅子の上に立ち上がってしまい、後ろの人にベルトを引っ張られて下ろされた。振り返ると一見してそれと解るヤクザ風の男がいた。ヤバイなと思い「スイマセン」と謝ると「いいよ」と言われて直ぐに気を取り直してライヴに戻っていったが、帰り道で友人が「お前危なかったぞ」と言っていた。「知らねぇよそんなの、それよりミックは凄えな」とストーンズの事で頭は一杯だった。

 ミックの存在感ばかりが印象に残ってしまったが他のメンバーの事も忘れてはいけない。ローリング・ストーンズはミック・ジャガーとその一座ではない。1988年のミックのソロを経験した人なら良く解るはずだが、あくまでもバンドあってのミックなのだ。へただ下手だと言われていたキースのギターは誰がそんなことを言ったんだと怒りたくなるほどイイ音を出していた。あ、ここもキースが弾いてたんだという場面が幾つもあった。リズムとリードではなく、2本のギターのアンサンブルというブライアン・ジョーンズの編み出したストーンズ・スタイルは脈々とロン・ウッドにも受け継がれていた。キースにとってロンは最高の相棒なのだろう。喜々としてギターを弾くおじさんの姿を見るのは悪い気分じゃない。大照れで歌ったハッピーも印象深い。正直いってミックよりも親しみやすいキャラは意外だった。そして淡々と叩いているように見えたチャーリーのドラムも思いのほか力強かった。何よりも彼はシブイ、ニヒルだ。しかしドラミングは熱い。まさにリーダーの風格十分で、ステージの最後に彼を中心にメンバーが肩を組み挨拶をするときは誰もがすべてを納得するしかない。

 それにしてもビル・ワイマンは地味だった。どこかに隠れていたんじゃないかと思うほど僕は彼の存在にまったく気づかなかった。一説には2時間半のステージで3歩しか歩かなかったなどと言われたほどで、それはそれで面白いキャラだとは思う。気になった僕はチケットを都合してくれた同行の友人に訊いてみた。「そういえばビル・ワイマンはどうしてた?」「誰それ?」「・・・」そう、彼はストーンズのファンでは無かったのだ。しかも彼はキング・サニー・アデよりも良かったなととぼけた事を言った。人生は不平等である。


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