"YEAR OF THE HORSE"1997

Director,Cinematographer&Cast: Jim Jarmusch / Producer,Cinematographer: L.A.Johnson / Editor: Tim Mulligan / Music&Cast: Neil Young and Crazy Horse


 ロック・ドキュメンタリーを映画にすることは以外と難しい。当然サウンド・トラックとして音楽自体は存在しているのでそれ以上、あるいはそれ以外の価値なり存在理由なりが無いと映画としては成り立たないからである。映像にとって音楽との勝負はかなりハードな戦いだと言える。それだけにハードルを越えた作品は名作と成りうる可能性も高い。

 対象に感情移入せず、冷静な視線でボブ・ディランの初期のツアーを追った「ドント・ルック・バック」などが音楽とは別の価値観を持たせ成功している稀な例だ。極端に言えばもしもディランの演奏シーンのサントラがなくてもこの映画には彼のロックを伝える力がある。また、ロバート・フランクの「コック・サッカー・ブルース」やブルース・ウェーバーの「レッツ・ゲット・ロスト」など写真家の作品に名作があることもこのジャンルの象徴的な特徴である。つまりワンカットごとの画面自体に伝える力が無いとそれはMTVか只のプロモーション映画に成り下がってしまうからだ。ほとんどのロック映画はこれだ。みんなその辺の大変さを知っているから最近は手を出す人も少ない。しかし久々のロック・ドキュメンタリーでしかも名作がジム・ジャームッシュの手によって生まれた。

 彼とニール・ヤングは「デッド・マン」で組んでいる。そのときジャームッシュの撮った映像にあわせて音をつけていくニールを撮影していて今回の企画を思いついたらしい。勿論ジャームッシュはニールのファンだ。しかしいつもの彼の映画同様に愛情を感じさせながらもカメラは決してベタベタしない。ステージの様子と関係者のインタビューと旅先の風景を淡々とつづり、さらにニール自身が16mmで撮りためていたクレイジー・ホースの初期中期のツアーの映像を織り交ぜてゆく。これがドキュメンタリーとしての厚みを持たせつつも少し切なくて泣かせる。そしてクレイジー・ホースのメンバーへのインタビューが非常に優れている。彼らが語るヤク中で死んでいった元メンバーや音に対するこだわりは「ザ・バンド」のような本当に危険な場所で生きてきた太いアメリカン・ロックの生々しさを良く伝えている。「突然N.Y.からやって来たお前がスカした連中の為にオシャレなアート映画を作っても、俺達のバンドの真実にはカスリもしないさ」とジャームッシュをアジるギタリストのポンチョには人間としてとても魅かれる。

 ライヴ・シーンの合間に挿入される風景イメージもシンボリックで良い。ほとんど手持ちの16mmと8mmとビデオで撮影しているのがフレキシブルだし、映像にドライブ感を持たせている。つまりこの映画は前出の名作とその作者の良いところが上手く咀嚼されているのだ。しかしアザトさは微塵もない。何故ならばこの映画の主役はニール・ヤングでもクレイジー・ホースでもなく、ましてやジャームッシュでもない。彼ら全員のロックの「音」そのものが主役でありジャームッシュの伝えたかったモノだろう。僕にはそれがビシビシと伝わった。この映画は紛れもない「ロック」そのものだ。軽く作った様に見せておいて彼はここまでやってのけた。むろん一足飛びにジャームッシュがここまでロック・ドキュメンタリーを引っ張り上げたのではない。その証として、リスペクトとしてその映像の歴史までも語り上げた訳だ。しかもたぶん本能的に。最後に編集のノリの良さも上げておこう。98年のベスト・ムービー決定。


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