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結局この人の映画が一番観ているし、何度みても飽きることがありません。ジャームッシュは僕よりもちょうど10歳年上ですが、このくらいの世代の人の感覚が僕はとても好きで、ジャームッシュ作品全体に流れるちょっと皮肉っぽくて、ユーモアのある飄々とした雰囲気はたぶん同世代と思われる大友克洋の「童夢」以前の漫画が持っていたトーンに良く似ている気がします。反70年代と言いますか、60年代を知りつつ青年期が不毛の時代だっただけにそれに反発するアウト・サイダー的な、ちょっとねじれたピースな心意気の作家があらゆるジャンルの中にいて、映画界では彼がその代表格でしょう。 彼の映画のほとんどは日常のちょっとした風景を切り取った「だからどうした」と言われればそれっきりの、スナップショットのような感じで、説教くさいところがまるでない。オチは有るけどヤマ場はない。だから観ている人にりきみをまったく感じさせない。でも何んだかイイんです。観ていてすごく楽しいし、観終わった後にイイ感じの余韻が残る。こういう感じが好きな人は大好きになるだろうけど、そうでない人は何が良いのかさっぱり判らないといった部類の作家と言えるでしょう。ただ、もしも彼の作品を観たことがない人がいたら是非「ストレンジャー・ザン・パラダイス」と「ダウン・バイ・ロウ」を観て欲しいです。これを読んでる人ならきっと好きになるはずです。 「間がイイ」「センスがイイ」などなど色々と言われていますが、僕は「すべてイイ」と言ってしまいます。映画の3大要素は音楽と脚本と映像と言われてますが、彼の映画はどれも平均して力が入っていてバランスがよく、観ていて気持ちがいい。さらに彼の場合、この手の感覚派の監督が蔑ろにしがちな役者の芝居もしっかりと撮ることが出来る。これはハッキリ言って完璧です。しかし中には例外もあって、僕は「パーマネント・バケーション」と「ミステリー・トレイン」はあまり好きではありません。ただしこれは彼のチャレンジ精神と言うか映画の可能性を模索した結果であって、いわゆる駄作ではありません。好きだと言う人もいるはずです。しかも彼は一つの場所に留まる事を知らないタイプのようで、どちらかと言えば庶民派で、インディペンデントの監督の彼が「ナイト・オン・ザ・プラネット」のようなハリウッドも真っ青な作品をつくってしまうのはとても痛快ですし、近作の「デッド・マン」では期せずしてアメリカ映画の王道を歩いてしまいました。これらもとても素晴しい作品で彼の気持ちが外へ外へと向かっていることを体現しています。同時期に脚光を浴びたスパイク・リーが1作ごとにディープな方向にはまっているのと全くの正反対なのがとても興味深いです。 それでも決してイヤミなど感じさせず、観客はただいつものようにジャームッシュ作品を楽しむだけです。なぜなら彼は雇われ監督ではなく自分が観たいと思う映画を自分でつくる作家だからで、たとえ映画のスケールが大きくなっても物作りに対する欲求自体は何も変わっていないからです。それが観ている人の共感を呼ぶ彼の魅力の秘密でしょうか。ちなみに最新作はフレキシブルな8mmビデオで自身で撮影したニール・ヤングのライヴ映画だそうですがとても楽しみです。普通は映画を観るという行為自体にちょっとしたイベント性があるものですが、彼の作品の場合は晩メシを食べた後に「今日はジャームッシュでも観ようか」といった気軽な、レコードを聴いたり写真集を観たりする感じで繰り返し接することが出来ます。ジム・ジャームッシュこそ映画というジャンルで観客と密接な関係を結べている、真の意味の数少ないカルト・ムービー監督です。(1998) |
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