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ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマそしてヘルシンキ。同じ一夜に異なる5つの都市で連続して起こる5つのコメディーを描いたジム・ジャームッシュの作品。"Mistery
Train"のアイデアをさらに煮詰めた完成度の高い映画です。ジャームッシュ作品の中でも"Stranger
Than Paradise"に次いで好きな作品なので書きたいことはたくさんありますが、まず特筆すべきは映像の美しさです。 撮影を担当しているフレデリック・エルムスはNY大学の映画テレビ科とLAのAFIで撮影技術を学び、そこでデビッド・リンチと出会い彼の「イレイザー・ヘッド」「砂の惑星」「ブルー・ベルベット」「ワイルド・アット・ハート」の撮影を担当。そしてジョン・カサヴェテスの「こわれゆく女」のカメラ・オペレーター補をし、その後「チャイニーズ・ブッキーを殺した男」「オープニング・ナイト」を撮影した人で僕が最も尊敬する撮影監督です。ここにあげた作品名を見れば判るように夜の街を撮らせたら天下一品の人です。光のバランスの取り方がとても上手いのでただ暗いだけの夜ではなく、濡れた路面に映るネオン・サインが登場人物を照らし、行き交う車のヘッドライトが街並みを映し出す、この映像を例えるならば黄昏の遊園地の様です。乾いた空気を感じさせながらもとても艶のある風景は「外国だな」って感じで最高です。それに場面ごとのレンズの選び方も好きです。特にワイド系のレンズの使い方が画面のボリュームを保ちながら奥行き感を出していてかっこいいです。この映画が良い意味でハリウッド並のゴージャスな印象をあたえているのはたぶんエルムスの腕のおかげでしょう。 またキャスティングも素晴らしく、まずは名優ジーナ・ローランズ、彼女が出てくれただけでジャームッシュは十分満足でしょう。そして「ダウン・バイ・ロー」でジャームッシュに発見されたロベルト・ベニーニ、「ベティ・ブルー」のベアトリス・ダルなど素晴しくて癖のある役者達を大変上手く使っています。割りとメジャーな役者とそうでない役者を違和感なく出演させて、そこに自然なジャームッシュ・カラーを醸し出しているのが、あらためてみると不思議な感じです。この作品で特に光るのはニューヨーク篇のアーミン・ミュラー=スタールと、やはりウィノナ・ライダーでしょうか。彼女はほんとに際立ってイイ女優です。最初のアイデアや話のおもしろさに頼ることなく、役者の芝居を前面に押し出した事もこの映画を成功に導いています。この恵まれたスタッフを使い切った事によってジャームッシュはセンスだけでなく、彼が類いまれなる「映画監督」であることを証明しました。老若男女、誰が観てもきっと満足出来るはずです。
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