ELVIS COSTELLO: LIVE 1984-1996


 僕が初めてコステロのライヴを観たのは1984年。2度目の来日の時でした。場所は渋谷の東横劇場だったと思います。ARBが前座と言うことだったので楽しみにしていたのですが当日キャンセル。がっかりしたのを憶えています。さて、そんな事情でやや困惑ぎみの観客の前にコステロ登場。「ハロー」の一言で総立ちです。やっぱり赤い靴を履いてました。思ってたよりもやや太っていたような気がします。当時パンク・キッズだった僕はコステロに対してややソフトな印象を持っていましたが、演奏が始まるとそのビートの効いた骨太なサウンドに引き込まれていきました。コステロもまだ若かったですし、次々と演奏を続ける姿はかなり強引で鬼気迫るものがありました。まるで「お前らが満足するまで俺は帰らない」と脅されているようで、パンク・ムーヴメントの中から出てきた人のパワーを見せつけられた気がしました。

 その後僕は撮影助手になり、忙しくてライヴどころではなくなってしまい次に観たのは1989年、新宿厚生年金か中野サンプラザ(定かでない)でした。当然円熟味を増した演奏でしたが、何かに追い立てられるような苛立ち感は残っていました。このライヴに因って僕の中ではコステロ・プラス・ライヴ、イコール怒れる男と言う計算式が定着し、ますます好きになって行きました。その後もほぼ1年置きにやってくるコステロのライヴに毎回足を運びましたが1991年の武道館以外はずしたライヴはありません。あの時は会場の音とマーク・リボーのギターが悪すぎました。1993年日比谷公会堂でのブロドスキー・カルテットとの公演でさえ、ロック野郎の心を揺さぶりました。この時は本物の本質は演奏のスタイル自体は重要ではない事を確信しました。毎回毎回確実に満足させてくれるコステロのライヴ。そんな彼に対して一つだけ僕が恐れていたのはコステロがこのままクラプトンのようにきれいに枯れていくのではないかという事でした。それに対する保険はコステロがステージで見せる『苛立ち』でした。それはこの人がまだ完全に満足していないという証明だからです。

 そして問題の1996年新宿厚生年金。このライヴでの感激を僕は一生忘れる事は無いでしょう。とにかく素晴らしい内容で僕は初めてライヴを観て泣きました。前回、何となくギクシャクしてたアトラクションズとのコンビネーションもばっちりでしたし、前座のロン・セクスミスがリラックスさせてくれたのも良かった様です。演奏というよりも音そのものを聴かせようとするその姿勢はとうとう生で観れなかったGREATFUL DEADのライヴを彷彿させてくれました。デッド・ヘッズの連中はジェリー・ガルシアが死んでもその魂の存在を信じている。コステロの演奏の中にもそれが息づいている気がしました。会場全体がピースとパワーにつつまれて、その中心で演奏を続けるコステロに例の苛立ちはありませんでした。恐れていた事態が起こってしまったにもかかわらず、僕は不思議と悲しくはありませんでした。それどころか20年かけて遂にここまできてしまった、あんな高いところまで上ってしまってきっと見晴らしがいいんだろうと思うと胸がいっぱいになってしまいました。奇跡のライヴが終わって家に帰って考えました。「あれは本当だったのか?」と。思い出すとブルブルと身体が震えてくる。自分でも信じられないほど感動していたのです。でももしかしたらコステロはここで歩みを止めてしまうのかもしれない。それを確かめるために名古屋での最終公演に行くことにしました。会場につくと駐車場でスタッフの女性と談笑するコステロを目撃しました。その姿は遠目にも充実感がみなぎっていて、僕の勝手な不安を期待に変えてくれたのです。その日はツアーの疲れがやや出ていたもののやはり素晴らしいステージでした。本当に良い意味でコステロ物語の第一部が完結したのです。帰りにはサインまでもらって最高に満足して東京にもどりました。

 それでもちょっとだけ悲しい事件がありました。アトラクションズはもうコステロについていけないという印象を強く受けたことです。特にベースのトーマスは完全に置いてきぼりを喰わされていました。案の定このツアーの後"Elvis Costello and the Attractions"は事実上なくなってしまいました。今後はまた違った立場でサポートしてくれればと思います。それにこの事はコステロ・ファンにとっては朗報です。それは彼の新しいスタートを意味するからです。これほどの才能を持った人の使命はただ前進あるのみです。Fuji Rock Festival '98にスティーヴ・ナイーブと二人で来るようですが、きっと又新しいステージを魅せてくれることでしょう。コステロ物語第二部に期待します。


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