ELVIS COSTELLO and Steve Nieve: LONELY WORLD TOUR 1999


 ひさびさのヒット曲を放った影響なのか、驚きの年内二度目の来日を果たしたコステロ。プロモーション主体とのことでライヴは東京と大阪で一回づつ。当然僕は東京公演のみに足を運んだのだが、後で話しを聞くとなんと大阪ではセットリスト40曲、3時間におよぶステージだったそうだ。別に東京公演のステージが不満だったわけではないが、ここまで差がついてしまうと非常に悔しい。よく耳にする事だが日本の客は大阪、福岡と西下するほどノリが良いらしい。しかし今回にかぎって言わせてもらえば東京公演で気分を良くした御陰の大阪セットリストだったはずだ。そう、82年のクラッシュ来日の際に僕たちが参加した新宿厚生年金昼の部での大ノリがあったからこそ、その日の夜の部は伝説のステージと成ったように。まあでも今度はチャンスがあれば大阪にも行ってみようか・・・な。

 場内照明が消灯されると間も無くステージにコステロとナイーヴが登場する。しかし二人にスポット・ライトは当らない。シルエットのままでいきなり新曲が披露される。エレキ・ギターをかき鳴らすミディアム・テンポのロックン・ロールだ。会場に緊張と期待が走る。コステロの意思表示とも受け取れる彼にしては珍しくクールなこのオープニングは非常に重要であった。「She」を目当てにやって来たカップルの肩をガックリと落としめたところでコステロはギターをアコースティックに持ち替えて「Man Out Of Time」「Talking In The Dark」といったお馴染のナンバーを軽快に演奏する。そう、「軽快に」だ。96年にアトラクションズと別れてから2人でツアーを廻りはじめて約2年、彼らはもう既に円熟期を迎えようとしている。10ヶ月前のステージと比べて格段に上がっている音の濁りの無さからもそれは明らかだ。唯一の問題点となっているリズム隊に関してもリズム・ボックスを使用するなどして解消、あるいは向上しようとしている。マシンを使ったこの試みは一時凌ぎ的な色合いが濃いと感じると共に、ロック・ミュージックに対するコステロのこだわりが解消されていない証として非常に嬉しい事態でもあった。開演前のBGMにもこの辺りは色濃く反映されていた。ナイーヴのピアノとコステロのギターとボーカルだけのこのユニットはあくまでも特別なものであり、この一本でコステロのライヴ活動を永続的に続けていけるものではない。始めから予測されたその壁に早々にぶつかってくれた事がかえって彼らをリラックスさせている様だ。僕の大好きな「RIOT ACT」のイントロが始まったところで此れを強く感じた。それは編曲前のデモ・バージョンであった(状況的にそうせざるを得なかったからかもしれないが)。ガムシャラに追及していくばかりが能じゃない、今はこれで結構といったところか。

 問題のマシンによる音の肉付けだが僕は専門家ではないので詳しくは分からないがナイーヴがコントロールしていたのでシンセサイザーの様なものだろう。正直言ってまだ扱い慣れていないといった風ではあったが「Clubland」では大変効果的に使われていた。96年のツアー時の「Little Atoms」のような音を重視したイプロヴィゼーション的なアレンジでグレイトフル・デッドのライヴの「スペース」を思わせた。個人的にはこの辺の感じをもっと追及して欲しいと常々思っているのだがどうだろうか。この時コステロの肩には久々にジャズ・マスターが掛かっていた事も嬉しかった。この日のコステロにはこうしたギターを弾きまくるジェリー・ガルシアの影ともう一つ、彼が敬愛するボブ・ディランのアイドルであったウディ・ガスリーの影があった。僕の知っているウディ・ガスリーは、子供の頃に観た伝記映画の中のデビッド・キャラダイン扮する吟遊詩人だ。ホーボー達と一緒に貨物列車の上に乗って旅をし、立ち寄った街の路上でギターをつま弾くウディー・ガスリーの姿と毎夜のごとく世界の何処かで演奏しているコステロの姿が重なった。ギター一本で数千人の観客の前に立ち、自作の曲を堂々と歌い上げるコステロ。この瞬間の彼は正しく「ミュージシャン」であった。米国音楽の二つのあり方を彼は一晩の内に見せてくれたのである。音楽と言うものの本質は分からない、でも凄く豊かなサウンドだった。

 それにしてもこの晩のコステロは本当に上機嫌だった。どのようなプロモーション活動を行ったのかは正確には分からないがテレビ出演もあったそうだから近年稀に見る華やかな日本滞在だったに違いない。その充実した喜びを全身で表わすかの様に歌唱、演奏、選曲とどれをとっても文句なしのステージだった。あえて言わせてもらえば、少しだけでも例のイライラを見せてくれた方がコステロらしかったとも思うが、それは捻くれたファン心理だろう。今はとにかく素敵なステージを見せてくれたことに感謝するべきだ。ピース。


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