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99年2月7日、半年という喜ぶべき短いインターバルでコステロが東京に帰ってきた。不完全燃焼だったフジロックへのリターンマッチと言ったら言い過ぎかもしれないが、ステージに現れたコステロは体調不良を噂されながらもいつも以上に気合いを全身に漲らせていた。半年前と同じ黒のスーツ、同じユニットだったがその内容はまるで違うものであった。前回のスティーブとの二人ぼっちでとても気になったのはリズム隊が居ないことだったが、今回はもうキザむキザむ。ドラムもベースもいらねぇぞとコステロがアコースティックでリズムを刻みまくる。何だよ、全開バリバリじゃないか。くそー、若いヤツらにこのロックを聴かせてやりたかったぜ、と悔しくなるほどノリノリの演奏に、いったいこの違いは何だと首を捻ったが、ステージの最中にあれこれ考える余裕を与えてくれるほどコステロはやさしくない。理由なんかどうでもいいやと僕はまたグリグリとコステロの造り出すグルーヴに巻き込まれていったのであった。 しかしたった二人の演奏であれだけ密度のある音を出すのは至難の業だと思うが、これは彼らの長年にわたる演奏活動の賜物であることは言うに及ばず、二人の息が本当に合っているからだろう。とにかく間がいい。音と音とのすき間がいい。今回特に際立ったのが「Watching
The Detectives」「Chelsea」といった20年以上も演奏し続けているオールドナンバーの演奏だった。普通はこういった古い曲は本人も飽きていて、変にタメたりしてリアルタイムほどの熱さは無くなるものだが今回は凄く良かった。言葉では上手く説明できないが曲自体が生まれ変わった様にとても生き生きと演奏されて、円熟味とは違う何か不思議な可能性を感じてファンとして嬉しかった。この一点だけをとってもやはりこのユニットもコステロの音楽に対するチャレンジだったと認めざるを得ない。コステロはまだ若い。そしてその曲も新しいアイデアによって若返っていた。それとこのツアーの近作が「Painted
From Memory」であることが僕にとってイマイチ不安材料だったが案の定ただの老婆心であったことも喜ばしい事であった。グラミー賞も受賞してコステロにとって日本での久々のヒットアルバムだが、個人的には聴けば聴くほど爺臭いアレンジがどうも好きにはなれなかった。当然このアルバムから以外と(?)多くの曲がセットリストに上がっていたが、二人だけのシンプルな演奏で聴くと曲本来のエッセンスがかえって凝縮されて、アルバムとは全く違った印象を受けた。他の旧曲と混じって演奏されても余り違和感が無かったし、やっぱり良い曲だなと今更ながら聴き入ってしまった。だがこのバカラックとのコラボ・アルバムを聴いてファンになった人も居るわけで、そういった人達が多く来ていたのかやや客席全体の反応が鈍かったのが残念と言えば残念ではあった。 今回のツアーでの最大の目玉はアンコールの最後に本当のアンプラグドで歌われる「Couldn't Call It Unexpected No. 4」だった。7日はこの時コステロが客席に降りてきて皆で合唱したのちにファンの握手攻めに合いながらサヨウナラという非常に興奮したエンディングを迎えたが、10日はセットリストの内容がやや落ち着いていたこともあってかことのほか客席が落ち着いていて、客席全体の歌声やアクションが少なく、ラストはとうとうコステロはステージから降りてはこなかった。何だかコステロに対して申し訳ないような気分になったが、何故か観客の拍手の音は大きかった。たぶんみんな別にコステロのステージに満足していないわけではなく、ただ単にスカした客が多かったのである。その辺はコステロ自身もわきまえていたようで特に不機嫌な様子は見られなかったが十何年前の彼だったらマイクスタンドを倒して帰ったかもしれない。その日、渋谷公会堂を後にするコステロに「プリーズ、カムバック・トゥ・ジャパン!」と声を掛けてみたら「I hope so.」と答えてくれた。でもコステロの背中は少しだけ寂しそうだった。「大丈夫ですよ、貴方のステージは最高だった。素晴らしい演奏にファンはみんな喜んでます。感情を素直に表現出来ないだけなんですよ。次はまたもっとイカレた連中が集まる様なイカしたアルバムを御願いします。待ってますよ!」と英語で伝えられればどんなにスッキリしただろう。残念無念。
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